オトーリ大好き泡盛の島 宮古島
TreeBond社内誌URC 200607
オトーリ大好き泡盛の島 宮古島
ありしま・あい 1974年東京生まれ。
ライター。学生時代に訪れた式根島が島めぐりのきっかけ。
暮らしの匂い漂う島風情が大好き。
日本の島の中でもダントツの人気を誇る沖縄。ダイビングや
マリンスボーツはもちろん、ビーチリゾートにゴルフ、
ショッピング、名所旧跡探訪、離島めぐり、教えきれない
ほどの楽しみがぎつしり詰まつた遊びの楽園、そして、
「ナンクルナイサー(なんとかなるさあ)」が合言葉の、
おおらかで底抜けに明るい島の人たちが暮らす、ココロ優しい島々。
そんな沖縄の楽しみのひとつに、島酒がある。笑いあり、歌あり
踊りあり、隣の席の見知らぬ人たちとの抱擁あり::。沖縄の酒の席は、
とことん明るく楽しい。島によっては、決まつた作法で酒宴を行なう
島もあり、なかでも、宮古島に伝わる「オトーリ」は、島酒の楽しさ
や恐ろしさ(?)が味わえる、独特のお酒の飲み方だ。
「オトーリ」とは、泡盛をグラスで一気飲みして杯をまわす回し飲み
の作法。古くから宮古地方に伝わるお酒の飲み方で、むかしは貴重品
だつたお酒を、平等に分け合つて飲むために始まつたと言われる。
今では、「オトーリ」用に水割りにされた泡盛も売られているほどで、
いつでもどこでも「オトーリ始めるさあ」の一言で「オトーリ」の宴
は開催される。
「オトーリ」を始めるには、まず、親になつた人がお酒を人れたグラス
を持つて「口上」と呼ばれる挨拶をする。「今日は、この仲間と飲める
ことが-」と、集まつた人へ気持ちを伝えてもいいし、島の人たちは
「免許が取れました」、「彼女と仲直りできました」などと報告をする
場合もある。そして親は「ありがとうございました」とグラスのお酒を
飲み、そして隣の人にグラスを回し、メンバーは順番に親から注がれた
酒を飲みまわしていく。お酒の弱い人はあらかじめ「‥自分はお酒が
弱い」と申告しておくといいだろう。
右回りが「豊作回り」で、左回りが「大漁回り」。どちらに回しても
縁起がいい。
全員が飲み終わると、親はもう一度グラスを空け、次の親を隣の人に
譲る。そうやつて全員が親を務め終わると、「ではもう一周」と、
グラスは止まることなく回されてゆく。
途中で寝てしまってもかまわず進んでいく。起きたら復帰する‐‥‐
まさにエンドレス。
別名「夜のトライアスロン」とも言われるこの「オトーリ」、一度
はじまつたら最後、延々と回り続けるので、宮古人でさえも、宴が
長引いてくると自分の荷物をどんどん出入り口の近くによせはじめ、
トイレに行くふりをして逃げたり、携帯で話し込んでいるふりをして、
そのまま姿を消してしまうこともあるとか。
なんとも恐ろしい耐久レースのように思えるけれど、もともとは、
一杯の酒、一滴も無駄にしないように皆でわけあつて楽しもうという、
宮古島の人々のあたたかさと物を人事にする気持ちから生まれた習慣。
だから、飲めないときは誰かが飲んでくれるし、親がお酒を注ぐふり
をしてくれる場合もある。泡盛は、あらかじめ氷や水で薄めてあり
飲みやすくなっている。「オトーリ」は、決して無理強いをしない。
宮古島の人は笑顔でこう言う。「お酒は楽しく飲む大事なもんさぁ」
親になると、全員と話ができるのも「オトーリ」のいいところ。
全員に注目されながら話をするのも、ちょっと緊張してしまうけれど、
あらたまつて自分の思いを伝えられるのは素敵なことだ。全員が親に
なり、みんながみんなの話に耳を傾ける。気づけば、さっき
「はじめまして」と乾杯した人と、次の日一緒に海へ行く約束をして
いたり、隣のテーブルと一緒になつて「オトーリ」を回していたり::。
そんな一体感が「オトーリ」の魅力なのだろう。宮古島へ行つたら、
ぜひオトーリを回してみよう。やり方がわからなくても大丈夫。
宮古の人たちなら、みんな喜んで教えてくれるはずだ。
ちなみにはじめての「オトーリ」体験では、普段は焼酎のロックー杯
で上機嫌の私が、なんと四合瓶二本を軽々と空けてしまった。翌日は
言うまでもなくモーレツな頭痛に襲われるはめに::。
みなさんは、くれぐれも飲み適ぎない程度にどうぞ。でも、我を忘れ
てしまうほど、楽しい洒の席。それが「オトーリ」なのです。
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