伝統技術は人の手で 新旧合作の酒造蔵
伝統技術は人の手で 新旧合作の酒造蔵
BusinessComputerNews 20070813
盛岡市の酒蔵「あさ開(あさぴらき)」。
全国新酒鑑評会で12年連続の金賞受賞を
誇っている。l988年に完成した「昭和
旭蔵」は全工程がコンピュータで制御され、
経営情報には地元ソフトベンダーのシンエ
イシステムが開発したERPパッケージ
「助っ人中島くん」を採用と、県内有数の
IT活用企業だ。しかし村井良隆社長は「コ
ンピュータは使っていますが、主役はあく
までも人」という。「杜氏が丹念に仕込まな
いと、いい味わいの酒はできません」。伝統
とハイテクが同居する酒蔵を見学しに行っ
てきた。
盛岡市の中心街から車で10分強、ビ
ル群を外れていかにも城下町の雰囲気
を残す盛岡八幡宮のほど近くに、酒造・
あさ開の酒蔵がある。
開業以来135年、平成に入つてか
ら全国新酒鑑評会12年連続金賞(大吟
醸「あさ開」)、全国日本酒コンテスト
吟醸部門第1位(吟醸「夢灯り」)と高
い評価を得る老舗酒蔵だ。
ここに最新設備を装備した昭和旭蔵
が完成したのは1988年だった。新
酒ができたことを知らせる杉玉が下げ
られた門をくぐると、白壁と黒瓦の純
和風4階建ての酒蔵が姿を現わす。大
晦日と元旦を除く毎日、一般の見学が
可能とあって、地元ばかりでなく遠来
の観光客があとを絶たない。
見学コースは4階に設けられてい
る。精米室、蒸米室、麹室、仕込み室、
槽場(原酒を絞る)と回り、一升瓶に
詰めるボトリング工場を経て物産館
へ、というコースだ。社員の案内がつ
いて所要時間は約20分。夏休み期間と
あって、説明のたびに家族連れや団体
客から「へぇ~」「ほ~う」と歓声があ
がる。
コンピュータで完全制御
「秋から冬にかけて新酒を仕込む時
期は、大勢の人がいるんですが……」
と説明員。南部杜氏の藤尾正彦氏を筆
頭に、大わらわで仕込みが行われると
いう。ただ、春から秋にかけては、そ
のざわめきはない。そればかりか、仕
込み室は全くの無人、ボトリング工場
にも人影はまばらだ。
「全工程が完全にコンピュータで制
御されているんです」
とその理由を説明する。
その日の気温、湿度に応じて、発酵
室や仕込み室の温度をコンピュータが
24時間コントロールする。人が介在し
ないので、雑菌が入り込む危険性を最
小限に抑えることができる。ただし、
出荷する製品は検査員が毎日抜き取っ
て、科学的に風味や色合いを分析、最
後に味見してOKを出す。分析室はさ
ながら大学の研究室で、水質検査の専
門家が感心するような分析用の機器が
そろっている。
杜氏の藤尾氏は「人力だろうが機械
だろうが、酒は第一に麹、第二に酒母、
第三が造り(もろみ)」と言う。使用す
る米は山田錦、ひとめぼれなどだが、
ひとめぼれは一般家庭用でなく、酒造
り用に育てた特注品だ。これを機械で
50%まで磨き上げる。良質なでんぷん
質を残すことで、すっきりした呑み口
が醸し出される。
機械に頼む酒造りでは伝統の技術を
伝え残すために、並行して手揉みによ
る蒸米や麹の発酵、木の桶を使い人手
による擢入れ(攪拌)も行っている。「擢
入れのリズムには八代亜紀の『舟唄』
がいちばん合う」そうだ。まさに新旧
合作の酒蔵というわけだ。
ジフトウエアは地産地消
製造工程が完全なコンピュータ制御
というだけでなく、同社はERPパッ
ケージでも先進ユーザーだ。これまで
も販売管理、経理、人事など個別にシ
ステムを導入していたが、「決算のため
の経理システムでなく、経営のための
コンピュータ・システムに」と村井社
長が全面的な見直しを決断した。
「これまでのコンピュータ利用は、省
力化がまずあって、その次に税務申告
にかかる時間を短縮するため、とか、
融資を受けるときの資料を迅速に作成
するため、という理由づけが行われた。
そこに〝経営のための″という視点が抜
けていた」
システムの全面更新に際して、複数
の市販パッケージを検討したが、なか
なかフィットするソフトが見つからな
かった。たまたま同じ盛岡市に本社を
置くソフト会社のシンエイシステムが
開発したERPパッケージ「助っ人中
島くん」の説明を聞いた。シンエイシス
テムの中島浩章社長が地元ユーザーの
規模やニーズをもとにコンセプトを作
った。
システムは大きく経理系と販売・仕
入管理系に分かれ、両系統のデータを
統合して経営情報を生成する総合経営
システムが形成される。経理系は仕入、
受注、販売(売上、売掛)、支払(買掛、
経費)、給与などお金の出入りにかか
わるデータを、販売・仕入管理系は生
産、在庫、受注、発注、得意先、減価
償却など現場のモノにかかわるデータ
を、それぞれ一元的に管理する。デー
タベースが一本化されているため、両
系統のデータが重複したり再入力する
手間がかからない。
しかも操作性がいいので、金銭を出
納する係と仕入の支払いをする係に複
数の事務員を配置する必要がなくなっ
た。支払処理は完全に自動化され、入
金と出金も誤差がない。現場でモノを
動かす人と伝票を起こす人が別という
こともないので、出庫伝票のデータが
そのまま出席した実数ということにな
る。事務作業が軽減されたというだけ
でなく、正確に把握できるようになっ
た。
あさ問の従業員は約80人。典型的な
地域の中堅企業だが、全国規模で見れ
ば「中小」の部類に入る。しかしIT
の利活用では先進企業だ。「コンピュー
タで伝統の技術は継承できない。技術
の伝承は人から人、管理はコンピュー
タ」という考え方が根底にある。日本
酒に代表される伝統品は、やはり「人
が作る」ということだ。
大手ユーザー企業は何でもかんでも
コンピュータ任せになり、人から技術
やノウハウが失われつつある。例えば
都市銀行のATMオンラインシステム
が停止したら、窓口に立つ行員はなす
術を知らず、立ち尽くすはかない。そ
うしたなか、本当のコンピュータ利用
は地域の中堅企業に見ることができる
のではあるまいか。
あさ開のいわれ
南部藩士だった村井源三が武士
を捨て創業したのは明治5年
(1873年)。銘柄の名は柿本人
麻呂が詠んだ「あさ聞漕ぎ出でく
れば武庫の浦の汐千の潟に田鶴
が声すも」から取った。
「あさ聞」とは日の出を意味し、
船出を意味する「漕ぎ出る」にかか
る枕詞。明治初期の文明開化を朝
明けにたとえたという。社名は長
く盛岡酒造だつたが、1987年、
現社名に変更。創業者の名を取っ
た「あさ開源三屋」の隠し酒も人
気となっている。
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