特派員メモ カメラの持ち方
特派員メモ カメラの持ち方 朝日新聞20070718
「君の、そのニコンだが…」。ナポリ郊外での取材財か
ら車で市内に戻ったとき、同行の地元の記者が真顔で切り
出した。「そんな高価なものを持つ外国人を街に放り出す
わけにいかない」。心配だからホテルまで送ると言う。
カメラのことではその日昼にも注意されていた。「ナポ
リじゃカメラはそんなふうに持つもんじゃない」。取材で
会った年配のNGO代表は別れ際、私が肩にかけていたカ
メラつをつかんで首にかけ直した。「しっかり手で支えて」
ナポリのひったくりは有名だ。昨年は高級腕時計の強奪
が相次ぎ、市がプラスチック製の腕時計を配って本物は
ホテルの金庫に」と訴えた。
それにしても、会う人ごとに注意されるとは。自分はそ
れほど無防備な人間に見えるのだろうか。少々情けなく思っ
ていたら、こんどは通りで後ろから肩をたたかれた。
「その持ち方だとひどい目に遭いますよ」。見ず知らず
の若い女性が怖い顔つきで立っていた。「またか」。この
街ではあなたが思うよりずつと緊張感を持って生きている
のよ。その目には「誇り」さえ宿っているように見えた。
大きなカメラを肩にかけてのんきに歩く姿が、「この街
をなめている」ととられたのか。以後、バッグにしまうこ
とにした。 (喜田尚)
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