職場で知り合ったアルバイトの女子高校生と深い伸になり、淫行の
恋愛と淫行の境目は 朝日新聞20070603
職場で知り合ったアルバイトの女子高校生と深い伸になり、淫行の
罪に問われた男性には、妻子がいた。しかし、法廷で「真剣な交際だ
った」と訴えた。判決は無罪。「恋愛」と「みだらな行為」の線引き
はどこにあるのか。 (花野雄太)
昨年2月、居酒屋チェーンの副店長になった愛
知県の男性(32)は接客係のアルバイト少女(当時
17)と知り合った。「てきぱきと働き、笑顔も良
く、勤務の空き時間におしゃべりをするうち次第
に好きになっていった」(公判での男性の陳述)
関係が深まったのは同年5月ごろ。キタキッネ
と少年の交流を措いた映画「子ぎつねへレン」
を見に行き、感動して泣いた少女に好意を抱き、
帰りの車中でキスをした。
その後、頻繁にメール交換やデートを重ねた。
6月以降7回、名古屋市内のホテルで少女と関係を持った。
7月、少女の母親が少女を問いただして交際が
発覚。男性は自宅を訪れて謝ったが、母親は許さ
なかった。母親に伴われた少女側が8月下旬に被
害届を出し、男性は瀬戸着に県膏少年保護育成条
例違反(淫行の禁止)の疑いで逮捕された。
取り調べでは容疑を認め、いったん略式起訴さ
れたが、男性側は「真剣な気持ちで付き合ってい
た」として無罪を主張。正式裁判に移行した。
「恋愛」と「淫行」の境目はどこにあるのか。
85年の最高裁大法廷判決が、その大枠の基準を
示している。
それによれば、「淫行」は性行為一般を指すものではない。
①青少年を誘惑、脅迫するなど不当な手段で行う
②単に自己の性的欲望を満足させるための対象としている
としか認められない、の2類型に絞られる。処罰
範囲が不当に広がることに枠をはめた。
相手の女性がー定年齢未満なら直ちに淫行、と
なるわけでもない。今回、主に争点となったの
は②の部分だった。
名古屋簡裁の山本正名裁判官は、この判例をも
とに違法性を検討して判示した。
「世上言われる妻子ある男の浮気、不倫であ
り、道徳的に非難されるべきことには異論がな
い」。だが、「それゆえに直ちに『単に自己の性
的欲望を満たすだけの目的』の交際だったとまで
言い切れない」。
理由は、こうだ。
①ー定期間付き合いがあり、双方に恋愛感情が生じ人格的交流があった
②少女は、妻子ある男性と承知しながら、合意の上で性行為に至った
少女は警察の調べに、「一緒にいて波長が合
う」。男性に電話をして「母に連れられて被害届
を出したが、私の方から出すっもりはなかっ
た」と話していたとの事実も、判決で認定された。
検察側は「上司の立場を利用して関係を迫っ
た」とも主張したが、判決は、互いに恋愛感情
を抱いていたと認定して検察側の主張を退けた。
民法では、女子は親権者の同意があれば16歳か
ら結婚できる。そのことも考慮しなければならな
い、と判決は説いた。
近年の結婚観や男女交際観の多様化を挙げ、
「『結婚を前提としない』ことだけを取り上げ
て真摯な交際でないと断じることは難しい」とも
指摘している。
法曹関係者によると、条例違反(淫行)罪での
無罪は極めて異例。「妻子持ちなら淫行に問え
る」という捜査現場の常識を覆す判決に、検察側
は控訴すべきか検討を続けている。
事件当時、男性の妻は2人目の子を妊娠中で、
公判中に出産した。男性は、逮捕を機に少女と別
れ、冷えてしまった夫婦関係を修復中だという。
「彼女との関係は思い出として胸の中でいつ
か小さくなっていく。だが、妻との関係、2人
の子どもは、これから確実に大きくなってい
く」。裁判官はそつ説諭した。
これまで
名古屋簡裁は5月23日、17歳の少女との性行
為で愛知県青少年保護育成条例違反(淫行の禁
止)の罪に問われた男性に無罪を言い渡した。同
条例は「何人も18歳未満の青少年に対して淫行ま
たはわいせつ行為をしてはならない」と定める。
同様の条例は長野を除く全都道府県にあるが、対
象を「不当な手段」による性行為に限定する条例
もある。
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