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2007年9月 2日 (日)

国連公用語とは何か ドイツ語の試みに倣え

国連公用語とは何か ドイツ語の試みに倣え
町田健 名古屋大学教授 Foresight200709

第2次世界大戦時の枢軸国
ドイツ、イ夕リア、日本
は戦争に敗れ、大戦後の世界で
は、少なくとも政治に関わる場
面では疎外される立場であり続
けた。したがって、三国の言語
が国際連合の公用語となること
を期待するなど問題外といった
状況だったことは確かである。
 大戦により多くの主要都市が
徹底的に破壊された我が日本に
ついては、戦後も脱亜入欧の精
神が長く残存していたせいもあ
って、自国語が海外で広く使用
されること、ましてや最大の国
際機関たる国連での公用語とな
ることを想像するなど極めて稀
であった。
 しかし考えてみると、ドイツ
語とイ夕リア語は、英仏語と並
んで、まざれもなくヨーロッパ
の主要言語である。偉大なロー
マ文化を背景とし、ルネサンス
の中心地であったイ夕リアの言
語は、文学、思想、芸術の各分
野で優れた作品を生み出してい
る。ロンドンのイタリア料理の
店のメニューにはイタリア語が
並ぶし、アメリカの裏社会を牛
耳っていたマフィアたちはイ夕
リア語を操ることができた。
 大哲学者カントやヘーゲルの
作品や、不世出の大数学者ガウ
スの論文はドイツ語で書かれ
た。大音楽家のベートーベンも
モーツァルトもウィーンで活躍
し、母語がドイツ語であったこ
とを考えると、世界におけるド
イツ語の重要性も疑いない。
 ただ言うまでもなく、国家統
一が遅れた独伊両国が植民地獲
得に失敗し、その結果として独
伊両言語を公用語とする国は、
英仏語に比べるとはるかに少な
い。独伊語の文化的重要性が高
いことは認めるにせよ、国際機
関の公用語としての有用性がそ
れほど大きいとも考えにくい。
 だが、日独伊の三国とも、敗
戦による国力の疲弊を克服し
て、先進国入りにふさわしい経
済的発展を遂げたことは、誰し
も知るところである。一九六〇
年以降、ローマ、東京、ミュン
ヘンと次々にオリンピックの開
催国となった。国際的威信を取
り戻した三国が、自国の言語を
国連公用語の仲間に含めたいと
希望するのも無理からぬところ
はある。
 その希望は未だに実現しては
いないが、ドイツについては少
し状況が異なる。ドイツはオー
ストリアとともに、一九七四年
以降、国連総会・理事会に関わ
る業務一般と並んで、文書作成
や翻訳に携わる部署である「総
会会議管理局文書課」内に、「ド
イツ語翻訳部」という部署の設
置を認可されている。ここでは、
国連文書をドイツ語へ翻訳する
だけでなく、国連に関わるドイ
ツの活動をドイツ語で発信して
いる。現在では、国連のウェブ
サイトに「ドイツ語による文書」
というコーナーがあって、そこ
をクリックすると、国連公用語
によるものに準じる形式・内容
のサイトが閲覧できるようにな
っている(www.un.org/Depts/german/)。
 このような翻訳サービスは、
予算さえ支出すればすぐにでも
可能であり、ドイツ語への翻訳
は、ドイツ、オ-ストリア、ス
イス、リヒテンシユタインのド
イツ語国四カ国が年間約百五十
万ドルの費用を分担することで
実現している。
 日本語については、サイト中
の「国連の活動」というセクシ
ョンにだけ日本語版があるが、
これは日本政府の予算ではな
く、数人の個人の好意で運営さ
れていると紹介されている。
 世界有数の経済大国であるだ
けでなく、国連安全保障理事会
の常任理事国としての地位を求
めている日本が、自国語による
国連ウエブサイトを運営するた
めの予算を計上することなど、
難しくはないものと思われる。
何より、国連を通じての活動を
今後とも重視していくつもりで
あれば、日本語への翻訳業務を
拡大することは必要であろう。
 もちろん、ウエブサイトの日
本語版を立ち上げるだけでは、
日本語を国連公用語の地位につ
けることは難しい。母語や公用
語としての話者数が増加するこ
とは期待できないから、留学生
をさらに積極的に受け入れ、日
本語と日本文化を紹介・教育す
る海外施設を拡充するなど、日
本語による発信の魅力と有用性
を高める地道な努力を継続させ
ることが望まれる。日本文化の
偉大さは、独伊のそれに勝ると
も劣らないのだから。   

話者数の多い言語の分布
国連公用語英仏露中スペインアラビア語を除く話者4500万人以上
『世界のことば小事典
独語  1億人
伊語  6000万人
ポルトガル語 1億3500万人
トルコ語 6000万人
ウクライナ語 4500万人
広東語  8000万人
朝鮮語  6000万人
日本語  1.2億人
ベトナム語 5000万人
ジャワ語 6500万人
インド語内訳
①ビンティ-語 2億人
②ベンガル語 1.5億人
③パンジャービー語7000万人
④ビハール語 6500万人
⑤テルグ語 5500万人
⑥タミル語 5500万人
⑦マラーティー語5000万人

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