<ビジネスワイド>中小企業の賢い買い方、売り方買収、売却――2つの経験から授ける
松浦会長からの紹介で書いたものです。
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<ビジネスワイド>中小企業の賢い買い方、売り方
買収、売却――2つの経験から授ける
中小企業の賢い買い方、売り方
社団法人関東ニュービジネス協議会理事
株式会社アサヒ商会代表取締役 広瀬洋一
中小企業の賢い買い方、売り方
社団法人関東ニュービジネス協議会理事
株式会社アサヒ商会代表取締役 広瀬洋一
M&Aが成長やハッピーリタイヤを実現させる――売却と買収をともに実行した文具事務機販売会社のアサヒ商会。広瀬洋一社長が実体験から、中小企業のM&Aの要諦を説く。
満足できる株価を算定―― 子会社をキヤノンに売却
私どもの会社は文具事務機を会社向けに販売しています。群馬県高崎市が本社です。アスクルより先に文具通販を開始しましたが、アスクル設立3年目に抜かれました。当社は今年で設立60年になりますが、M&Aを売りと買い両方を経験しました。
5年前、当社の子会社である群馬キヤノンBM株式会社を売りました。同社の株の15%は仕入先のキヤノンが所有していました。ある日、キヤノンの方針でキヤノンの名前が付いた会社はキヤノンの100%子会社にするか、キヤノンの名前を外すか、いずれかを選択することを迫られたので、当社は売る方針を固めました。
当社は純資産方式で株価を算定しました。ところがキヤノンはDCF方式(DiscountCashFlow)で算定しました。将来の利益の10年分を現在の価値に割引くのがDCF方式で、大会社ではよく使う方式でした。
この方法で算定した株価は、国税庁方式ともいわれる中小企業では一般的な純資産価格方式よりずっと高かったのです。さらに顧問弁護士に「退職金も要求してみなさい」と指導されたので、私と同族役員の退職金を要求してみたところ思いのほか高い金額が提示され、すべて円満に交渉がまとまりました。
もちろん事前に先方の監査法人の買収査定があり、厳しく評価されたわけですが、結果は当方も大満足でした。現在も従業員はほとんど残ったまま盛業ですし、当社も売却により結構な利益を出し、資本が充実しました。
従来はキヤノン製品を子会社経由で仕入れていたのですが、売却後は直接キヤノンとの契約になり、売り上げも順調です。群馬キヤノンは現在東証一部上場のキヤノンS&Sの群馬支店になっています。
売却と買収をともに経験したアサヒ商会。広瀬洋一社長は「企業の成長や経営者のハッピーリタイヤにM&Aはきわめて有効」と説く(写真はアサヒ商会のホームページより)
株式交換で同業者を買収、東京進出の足がかりへ
一方、買収も経験しました。2年前、当社と同業の株式会社ほたかを株式交換で買いました。当社は以前、東京投資育成株式会社の出資を受けていた関係で監査法人の監査をずっと受けていました。2005年グリーンシートに株を公開し400円の初値が一時は630円にもなったりしています。
そこへ旧知の、ほたかの前社長から買収を持ちかけられました。驚きましたが、東京進出のよい足がかりになるという判断で、日本M&Aセンターに資産査定をしてもらいました。額面500円株が1株485円の評価でした。当社の50円株を時価の500円で1対1の株式交換と決まりました。
ところが株式交換を実際に手がけた経験者が、私の知る限り群馬県内にはいなかったので実務がわからず、デーブレイン証券に指導いただき実施しました。
当社は株券を刷り増し先方の株と交換するだけで、現金は動きません。しかもこの分の金額は資本金を増額させずに、ただ資本準備金に半額を計上するだけなのです。自分の会社の株券を刷ったのが現金同様に評価されるわけで、まるで日銀にでもなったような気分です。ちなみに日銀は、ほたかの主要得意先でありました。
ほたかの前社長は当社の大株主となり、必要ならグリーンシートで売れば現金化できるようになりました。いまは私のせがれが社長になり、群馬はアサヒ商会、東京はほたかで業務を分担しています。
経験から見出した買収、売却それぞれのメリット
買収と売却の双方を経験した結果、これらの手法を上手く活用すれば以下のメリットを見出せることを改めて認識しました。
価値のある会社を買収すれば即事業が自社のものになり、時間が節約できます。取引先もそのままで契約は引き継がれます。人材もそのままですから、再就職斡旋の問題もありません。一から事業を立ち上げるよりずっと早く、結果的には安く、事業ができるのです。
一方、売却のメリットは何でしょうか。会社を手放すときに廃業という手段をとれば、倒産時のような評価額にしかなりません。土地と現金と借金しか勘定されません。しかし売却なら、長年手をかけた得意先・仕入先・従業員・在庫のすべてが生きたまま評価されます。会社の継続を考えれば、このほうがずっと得です。
買収時には売掛金と不動産の算定に注意せよ!
会社の資産・価値は決算書だけではわかりません。買収候補先の会社が監査法人の監査を受けているとか、会計参与がいないと信用ができません。買収前の精査が必要です。とくに売掛金・不動産には注意しましょう。
売掛金には不良債権ともいうべき回収に問題のある売掛がそのまま計上されている場合が多いです。その見極めが難しいのです。不動産は簿価が時価とかけ離れた評価のままが多く、現実離れした数字になっている場合がしばしばあります。時価に換算しなおしましょう。退職給付引当金も100%計上してから会社価値を算出しましょう。
買収に株式交換が使えれば最高ですが、ベンチャーキャピタルやグリーンシートを使い資金調達することも、選択肢に入れたほうがいいでしょう。買収後は相手の会社とシナジーが出れば最高ですが、管理部門とシステムの統合だけでも経費を削減でき、効果があります。
じつは当社には、もう1件、買収話があったのですが残念ながら他社に買われてしまいました。ここを買収していれば今は上場会社になっていたはずです。先方がいだいていた真の要望への理解が不足していたと反省しています。残念ですが、また次の機会が来るのを待ちます。
“売れる会社”にするには収益性と成長性の強化が一番
株式を公開したり上場しても株を株のまま持っているだけでは公開益は絵に描いた餅です。現金化しなくてはイグジット(出口)になりません。持ち株は後継者への承継や企業支配戦略上必要な割合にとどめ他は売却しないと、いつまでたっても引退できません。公開上場になれば、いつまでも地位に留まらずとも、より優秀な経営者が出てきます。
買収されるような魅力ある会社にしておけば、たとえ後継者がいなくても株の売却で自分の事業が現金化できます。売れる会社にするには収益性と成長性の強化が一番です。あなたの会社が後継者不足などの問題に直面しているのなら、自分の会社を磨き上げ高く売れるように収益性を高めておきましょう。
【関連サイト】
・アサヒ商会 http://www.bungu.co.jp
・関東ニュービジネス協議会 http://www.nbc-world.or.jp
私どもの会社は文具事務機を会社向けに販売しています。群馬県高崎市が本社です。アスクルより先に文具通販を開始しましたが、アスクル設立3年目に抜かれました。当社は今年で設立60年になりますが、M&Aを売りと買い両方を経験しました。
5年前、当社の子会社である群馬キヤノンBM株式会社を売りました。同社の株の15%は仕入先のキヤノンが所有していました。ある日、キヤノンの方針でキヤノンの名前が付いた会社はキヤノンの100%子会社にするか、キヤノンの名前を外すか、いずれかを選択することを迫られたので、当社は売る方針を固めました。
当社は純資産方式で株価を算定しました。ところがキヤノンはDCF方式(DiscountCashFlow)で算定しました。将来の利益の10年分を現在の価値に割引くのがDCF方式で、大会社ではよく使う方式でした。
この方法で算定した株価は、国税庁方式ともいわれる中小企業では一般的な純資産価格方式よりずっと高かったのです。さらに顧問弁護士に「退職金も要求してみなさい」と指導されたので、私と同族役員の退職金を要求してみたところ思いのほか高い金額が提示され、すべて円満に交渉がまとまりました。
もちろん事前に先方の監査法人の買収査定があり、厳しく評価されたわけですが、結果は当方も大満足でした。現在も従業員はほとんど残ったまま盛業ですし、当社も売却により結構な利益を出し、資本が充実しました。
従来はキヤノン製品を子会社経由で仕入れていたのですが、売却後は直接キヤノンとの契約になり、売り上げも順調です。群馬キヤノンは現在東証一部上場のキヤノンS&Sの群馬支店になっています。
売却と買収をともに経験したアサヒ商会。広瀬洋一社長は「企業の成長や経営者のハッピーリタイヤにM&Aはきわめて有効」と説く(写真はアサヒ商会のホームページより)
株式交換で同業者を買収、東京進出の足がかりへ
一方、買収も経験しました。2年前、当社と同業の株式会社ほたかを株式交換で買いました。当社は以前、東京投資育成株式会社の出資を受けていた関係で監査法人の監査をずっと受けていました。2005年グリーンシートに株を公開し400円の初値が一時は630円にもなったりしています。
そこへ旧知の、ほたかの前社長から買収を持ちかけられました。驚きましたが、東京進出のよい足がかりになるという判断で、日本M&Aセンターに資産査定をしてもらいました。額面500円株が1株485円の評価でした。当社の50円株を時価の500円で1対1の株式交換と決まりました。
ところが株式交換を実際に手がけた経験者が、私の知る限り群馬県内にはいなかったので実務がわからず、デーブレイン証券に指導いただき実施しました。
当社は株券を刷り増し先方の株と交換するだけで、現金は動きません。しかもこの分の金額は資本金を増額させずに、ただ資本準備金に半額を計上するだけなのです。自分の会社の株券を刷ったのが現金同様に評価されるわけで、まるで日銀にでもなったような気分です。ちなみに日銀は、ほたかの主要得意先でありました。
ほたかの前社長は当社の大株主となり、必要ならグリーンシートで売れば現金化できるようになりました。いまは私のせがれが社長になり、群馬はアサヒ商会、東京はほたかで業務を分担しています。
経験から見出した買収、売却それぞれのメリット
買収と売却の双方を経験した結果、これらの手法を上手く活用すれば以下のメリットを見出せることを改めて認識しました。
価値のある会社を買収すれば即事業が自社のものになり、時間が節約できます。取引先もそのままで契約は引き継がれます。人材もそのままですから、再就職斡旋の問題もありません。一から事業を立ち上げるよりずっと早く、結果的には安く、事業ができるのです。
一方、売却のメリットは何でしょうか。会社を手放すときに廃業という手段をとれば、倒産時のような評価額にしかなりません。土地と現金と借金しか勘定されません。しかし売却なら、長年手をかけた得意先・仕入先・従業員・在庫のすべてが生きたまま評価されます。会社の継続を考えれば、このほうがずっと得です。
買収時には売掛金と不動産の算定に注意せよ!
会社の資産・価値は決算書だけではわかりません。買収候補先の会社が監査法人の監査を受けているとか、会計参与がいないと信用ができません。買収前の精査が必要です。とくに売掛金・不動産には注意しましょう。
売掛金には不良債権ともいうべき回収に問題のある売掛がそのまま計上されている場合が多いです。その見極めが難しいのです。不動産は簿価が時価とかけ離れた評価のままが多く、現実離れした数字になっている場合がしばしばあります。時価に換算しなおしましょう。退職給付引当金も100%計上してから会社価値を算出しましょう。
買収に株式交換が使えれば最高ですが、ベンチャーキャピタルやグリーンシートを使い資金調達することも、選択肢に入れたほうがいいでしょう。買収後は相手の会社とシナジーが出れば最高ですが、管理部門とシステムの統合だけでも経費を削減でき、効果があります。
じつは当社には、もう1件、買収話があったのですが残念ながら他社に買われてしまいました。ここを買収していれば今は上場会社になっていたはずです。先方がいだいていた真の要望への理解が不足していたと反省しています。残念ですが、また次の機会が来るのを待ちます。
“売れる会社”にするには収益性と成長性の強化が一番
株式を公開したり上場しても株を株のまま持っているだけでは公開益は絵に描いた餅です。現金化しなくてはイグジット(出口)になりません。持ち株は後継者への承継や企業支配戦略上必要な割合にとどめ他は売却しないと、いつまでたっても引退できません。公開上場になれば、いつまでも地位に留まらずとも、より優秀な経営者が出てきます。
買収されるような魅力ある会社にしておけば、たとえ後継者がいなくても株の売却で自分の事業が現金化できます。売れる会社にするには収益性と成長性の強化が一番です。あなたの会社が後継者不足などの問題に直面しているのなら、自分の会社を磨き上げ高く売れるように収益性を高めておきましょう。
【関連サイト】
・アサヒ商会 http://www.bungu.co.jp
・関東ニュービジネス協議会 http://www.nbc-world.or.jp
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